「自転車一人旅」
20代の頃に自転車一人旅をした。
まあそうはいっても一週間ほどだが…
自分探しの旅というあれだ。
その自転車旅行をしている時、
小さな町の古い食堂が目についた。
特にお腹が空いていたわけでも
ないのだが、
入らなきゃいけないような
気がしたのもそうだし、店の入り口から出てる煙も気になった。
暖簾をくぐって入ってみたが
店の中には誰もいなかった。
とりあえず四人掛けの椅子に
座ってみた。
カウンターの奥から話し声が響いてる。お年寄りかな?
…世間話しでも、してるみたいだった。それよりも気になっていたカウンターの黒い煙。
天井まで立ち昇ってて
外まで伝わっていた。
そうか入口で気になっていた煙は
それだったのか…。
なるほど火の点いたガス台の上に
フライパンが空焚きされて
いたのだった。
「すいません〜すいません〜」
何度か奥に向かって叫んだ。
奥の方から
「あらっ、お客さんが来たみたいだから、又ね!」と聞こえるなり、
おばあちゃんが現れた。
「ハイいらっしゃいませ〜」と
言ったとたん「あら大変だ!」と、
コンロの火を止めにいった。
ジュ〜っとフライパンを水に付ける凄い音が響いた。
おばあちゃんが言うことには、
フライパンの水分を取ろうと
空焚きしてたら
知り合いが来て裏で話し込んでいた
とのことだ。
もし…私がプチ自転車旅行を
してなかったら…そしてこの日、
この時間に入らなかったら、
この店は大火事になっていたかも
しれないのだ。
つまり空焚きを止めるための旅行だったと…都合よく勝手に思った。
それというのも、
結局この自転車旅行から得られた
自分探しなんてものは何もなかった分、今回の旅行は必然なんだと、
こじつけをしたかったのかも
しれないが、、いや、そうじゃない、
これは天からの指令のもと仕組まれた
旅行だったのだ。
人生とはパズルのピースが絶妙に
繋がって今に至るのだから。
大火事を止めたのは私です。
人生ムズい。